ICH E17を読む: 2.1.1 医薬品開発における国際共同治験の意義
このセクションめっちゃ長い…。
各国で新薬の製造販売承認を得るために国際共同治験を実施するわけですが、
「本当にその試験計画は合理的ですか?」
という問いかけでしょうか?
単純に「国・地域を層別因子とする臨床試験」と捉えるだけでよいのならこんなガイドラインはいらないのですが、実際にはその国・地域間で治療効果が違うことはザラだし、そもそも「国・地域」の中でも、疾患によっては背景因子の分布がばらつくこともあり得る。層別因子が層別因子たり得るのは「その層内で交絡が起きない」ことなので、そもそも単純に国際共同治験で国・地域を層別因子にするだけでは問題は解決しないんだと思います。
もし国際共同治験が最善策ではない場合、特に特定の地域・国で治療効果の挙動が違うようならブリッジング戦略も選択肢とせよと主張しています。
このあたりの話は疾患によって全く違う方向になりますよね。
- 地域によって有病率が違う
- 国によって承認されている既存の治療薬が違う
- 国によって診断基準が違う
- 上記要素のミックス
…と、実際は国際共同治験を始めるにあたって検討すべきことは多い。
「単純なサンプルサイズ確保の手段とするのはおかしいでしょ?」
という苦言がこのガイドラインの趣旨なのかもしれませんね。
ICH E17を読む:1.4 基本的原則
国際共同治験で開発の効率はよくなる?
普通に「一つの試験で一つの目的」でやらせてくれれば、それは各国・各地域で個別に治験を実施するより効率はよいですよね。
ただ最近は「一つの試験で複数目的」にさせられることもあり、現場からするとたまらない煩雑さなんですが、それを割引いてもやはり効率的なのかな…?
重要な民族要因は早期の開発相で特定できる?
今統計モデルでやろうと盛り上がっていますね。
一般に早期の治験はサンプルサイズが小さいので、統計モデルを活用しないとこれは難しい。
ただし、ですが、これは「民族要因と治療効果で関連らしきもの」が数値として示されるだけで、民族に関する知識などを総動員して結果を解釈しないと、この分析は完結しないと思います。
治療効果の地域間の均質性を(暗に)仮定してる?
あまり意識はしませんが、統計モデルの設定上仮定はします。
均質性の評価には被験者数を各地域で「ある程度多い」必要があるのでして、「計画的に配分」しても、あまりに少ない地域があると色々不具合が生じるんですよね。例えば●本とか…。
地域のプールは被験者数の地域間配分を柔軟にできる?
確かにその通りですが、それを認めない地域もありますよね。例えば〇本とか…。
全ての規制当局に受け入れられるような単一の主要解析計画は可能?
ごねる地域がなければOK。
どの地域でもICH E6を遵守すべき?
Agree
各地域の規制当局と治験依頼者の効率的な協議は重要?
規制当局の方もそれに向けて努力してもらえれば。
ICH E17を読む:1.3 ガイドラインの適用範囲
「地域とは、地理的な地域、国又は規制上の地域」
あっさり述べているのですが、ある意味一番根本的な内容ですよね。
言いたいことは
「地域=国とは限らないよ」
「EUもあるで」
ということでしょう。
ただ、この点についてはこれまでも、欧米での治験で「地域」毎の被験者数をある程度確保して層別の治療効果を推定するために「北米・南米・東欧・西欧」という分類をすることはありましたので、そのことの念押しのようなものと理解しています。
ICH E17を読む:1.2 背景
近年は「自分の国」だけでなく日米欧(+中国)の複数地域で医薬品の製造販売承認を申請することが多くなっています。
医薬品開発にはコストがかかるので、広く売り場を確保しないと利益が出ないんですよね。
その申請のためには原則「その地域の患者さんから収集したデータで医薬品のリスクベネフィットを評価した」臨床試験の結果(データセットも)を根拠として示す必要があります。そうなると、一番効率がよさそうに見えるのが国際共同治験ということになります。
この国際共同臨床治験ですが、普通に考えると「国・地域を層別因子とする治験」(これ自体微妙な問題をはらんでいますが)で、様々な背景を持った患者さんの集団で医薬品の有効性・安全性を、同時多発的に評価できるという点で、各国で治験を実施するより承認までの時間が短縮できる、というメリットがあります。
…ということなのですが、実際にやってみると、地域によって疾患の捉え方が違う、あるいは医療慣行が違うなどということもあり、簡単ではありません。場合によっては、各地域ごとに検証する仮説が違う、ということも。まあ、これらのことも考えた上で国際共同治験をうまくやれば、早く承認をもらえるかもよ、というメッセージなのでしょう。
ICH E17を読む(1):1.1 ガイドラインの目的
このガイドラインが発効した平成30年(=>西暦にしないと何年前かわからない)には、既に国際共同臨床試験を根拠とした各国での医薬品製造販売承認申請が主流のアプローチになっており、あえてこのガイドラインを出す意義は…?というのが初見のときの感想だったと思います。
日本では先行して「ガイドラインっぽい」文書を公開していたのですが、これは「日本から参加する被験者数の確保」が妙に強調されたもので、社内でもやたら確率計算やらシミュレーションをやらされたものです。しかも国際共同臨床試験に参加するかどうかが決まるタイミングも微妙で、試験が始まろうとする際どいタイミングで日本からの被験者数を計算…みたいな混乱もありました。
そんな中、このガイドラインはあくまで「世界各地で」このアプローチを受け入れられるために考えるべき点を述べた文書、というスタンスに立っています。
それにしても日本の「ガイドラインっぽい文書」の位置づけはどうなるんだろう…?